うつ病の原因|ストレスによる『扁桃体(感情)の暴走』が招く脳の機能不全

脳の三層構造

うつ病を『心の病気』と呼ぶのは大きな間違いです。この解釈は、誤解と偏見を生みかねません。なぜなら、『心』は目に見えないからです。

皆さんは、『心』が何処にあって、どんな形をしているかご存知ですか?このテーマは、古代ギリシャ時代から論じられてきましたが、いまだに答えが見つかっていません。

その実態が分からないから、「心が弱い・気の持ちよう」などと、周囲の人が的外れなアドバイスをするのではないでしょうか?特に、家族の理解は必要不可欠です。

うつ病は『脳の病気』

うつ病は、明確に『脳の病気』です。ストレスが原因で、『脳』という器官が機能不全に陥っている状態です。少し難しく感じるかもしれませんが、順を追って、できるだけ解りやすく説明します。

うつ病の原因を脳科学の視点で理解することには、とても大きなメリットがあります。

1.周囲の理解を得られる

脳の病気だと解れば、さすがに「気の持ちよう」とは言わないでしょう。他の病気と何ら変わりなく、異常が起きている場所があるのですから。

2.有効な対策を立てやすくなる

そもそも病気の正体が分からなければ、対策の打ちようがありません。

たとえば花粉症の正体が分からず、風邪だと思われていた頃は、「体調管理がなっていない!」などと心無い叱責を受けたでしょう。自分でも、なぜ治せないのか分からず、途方に暮れ、有効な対策を打てなかったはずです。

ところがアレルギーだと解ると、たちまち偏見はなくなり、様々な対策を打てるようになりました。花粉症のメカニズムを知り、症状が出る理由が解った結果です。

うつ病もメカニズムを知り、何故うつ病の症状が出るのかが解れば、有効な対策を講じることが出来ます(何もせずに休むことも対策のひとつです)。

また、医師からのアドバイス「散歩をすること・規則正しい生活」などを、理解しやすくなります。人間、納得いかない事には身が入らないものです。

私が実際に行った対策を、こちらの記事で紹介しています。

うつ病再発への対処法|もう再発しないために可能なら行いたい3つのこと
今回の記事では、症状の程度によっては難しいかもしれないが、出来れば行って欲しいことを書いていきます。それは次の再発を防止する準備をすることであり、また一歩、うつ病克服に近づくことが出来る筈です。

では、脳科学の側面から見た、うつ病の原因を解説していきます。

うつ病のメカニズムを知る上での予備知識

アメリカの神経生理学者ポール・マクリーンの説によると、人間の脳は三層構造をなしているとのことです。これを踏まえた方が『うつ病のメカニズム』を理解しやすくなります。

脳の三層構造

爬虫類の脳(脳幹)

呼吸や心拍、食べる・寝るといった、基本的な生命維持に関与

動物の脳(大脳辺縁系)

食欲・性欲・睡眠欲・意欲などの本能と、感情や記憶を司る

人間の脳(大脳新皮質)

言語機能・論理的な思考・理性を司り、知的活動全般に関わる

まずジュラ紀や白亜紀といった爬虫類の時代があり、恐竜の絶滅のあとに哺乳類が繁栄し、やがて人類が誕生し発展した。そう考えると、『脳の進化』の歴史が解ると思います。

うつ病の原因~症状が発生するメカニズム

三つの層、それぞれに起きている、うつ病の原因を説明していきます。

原因その1~爬虫類の脳~本能的

爬虫類の脳である『脳幹』には、『セロトニン神経』のほとんどが集中しています。

最も有名な『うつ病の原因』は、「セロトニン不足」ではないでしょうか?

『セロトニン』は「癒しホルモン」と呼ばれ、安心感を与えてくれます。また、興奮系の物質『ドーパミン』『ノルアドレナリン』を調整し、気分を安定させる働きがあります。

これら気分に関係する物質を総称して『モノアミン』と呼ぶことから、その量が減少することで『うつ病』が発症するという説を『モノアミン仮説』と言います。

抗うつ剤として処方される主な薬にはセロトニンを増やす作用があり、一定の効果が得られているため、長い間支持されてきました。

しかし、抗うつ薬を飲んでから数時間で脳内のセロトニンが増えているのに、効き目が現れるのに2週間以上かかってしまうタイムラグの『謎』を説明できません。

『謎』を説明できる新たな仮説

近年、その『謎』を説明できる仮説が登場しました。

それは、『神経可塑性仮説』です。「脳の可塑性(かそせい)」とは、刺激や状況に応じて、「脳には変化する能力がある」ということです。例えば、新しい知識や技能の習得をすれば、神経ネットワークは「変化」します。また、脳を損傷し、身体の一部が動かなくなったとしても、別の神経細胞がカバーしたりします。この、「変化」することが「可塑性」です。

脳内には、『BDNF(脳由来神経栄養因子)』という、いかにも脳に良さそうな名前のタンパク質が存在しています。これは「脳の栄養分」のようなもので、

  • 神経細胞の新生を促す
  • 今ある神経細胞を維持する
  • 脳内の神経ネットワークを強化する
  • 神経伝達物質(セロトニンなど)の合成を促進する

といった、とても有り難い作用があります。

最近まで「脳細胞は一度死滅すると、再生することはない」と言われ続けてきましたが、現在では、後天的にも新たに増えることが科学的な常識となっています。まさしく、「脳には可塑性がある」ということです。

この『BDNF』が、うつ病の人では減少していることが確認されています。ストレスにより神経細胞がダメージを受けても、改善され難くなっているのです。すると、神経細胞から分泌される『モノアミン』も減少し、うつ病が発症するというメカニズムです。

BDNFは抗うつ薬を飲むことで増えるため、セロトニンを介して分泌されると考えられています。つまり、「抗うつ剤によってセロトニンが増え、それを介してBDNFの産生が増加する。そして、神経細胞の新生や成長を促進するまで2週間以上かかる。」と考えれば、タイムラグの『謎』が解明されます。

ということで、やはり『セロトニン』を増やすことは重要なようです。

セロトニンを増やすには

「太陽光を浴びること」と「運動をすること」です。自然界で生きていれば、当たり前に行われることです。本能的な脳なので、そこに働きかけることが有効です。

かつては私たち人類も、日の出とともに活動を始め、太陽が沈んだら休むというサイクルで生活していました。移動手段も「車や電車」ではなく、「歩く・走る」です。

朝日を浴びることによって『セロトニン』が分泌され覚醒し、暗くなるとセロトニンを原料に「睡眠ホルモン」と呼ばれる『メラトニン』が合成され、睡眠へと導きます。自然な睡眠に入るためにも、セロトニンを増やすことは大切なのです。

朝が難しい場合でも日光浴は効果がありますので、30分を目安に行ってください。

運動にも絶大な効果があります。

『セロトニン』のみならず、『ドーパミン』『ノルアドレナリン』を増やす効果もあります。また運動により、『BDNF』そのものが増えることも明らかになっています。

とにかく運動には、「脳の可塑性」を好転させる、素晴らしい効果が満載です。

詳しくは、こちらをご覧ください。

うつ病を治す脳の騙し方|まずは運動から入るべき5つの理由
うつ病であること自体、脳が騙されています。昔の名残でストレス=生命危機と勘違いしています。そのとき脳では血流と神経伝達物質の不足が生じます。運動をするとその不足を解消できます。しかも何も考える必要なしです。運動が脳を騙す仕組みを解説します。

お勧めの運動は、ウォーキングとジョギングです。同時に日光を浴びることが出来るからです。息は上がるが会話はできる程度のスピードで、20分~30分が目安です。

原因その2~動物の脳~野性的

脳のうつ病に関する部位

あの忌まわしい、つらくて苦しい『うつ病の症状』を生み出しているのは、脳のどの部分なのでしょうか?

それは、「感情」を司る『扁桃体(へんとうたい)』です。扁桃とは、アーモンドの日本語名で、その名の通りアーモンド形をしている、直径1㎝ほどの小さな部位です。『脳の三層構造』の第二層にあたる『大脳辺縁系』にあります。

扁桃体は、「快・不快」「好き・嫌い」の判断をします。野性的であるがゆえに、とりわけ『生命の維持』を脅かすような経験にまつわる『感情』を記憶しておくことに、大きく関わっています。

扁桃体によってもたらされるネガティブな感情は、『不安』『悲しみ』『自己嫌悪』『恐怖』『焦燥感』などです。

うつ病を経験した人なら解ると思いますが、これって、まさしく『うつ病の症状』そのものだとは思いませんか?

本来は、危機に対する防衛本能

チーターとトムソンガゼル

扁桃体による『恐怖』の感情があるからこそ、危険を回避することができます。

たとえば自然界においてトムソンガゼルがチーターに遭遇したら、即刻、命が危険にさらされます。呑気に日向ぼっこをして、セロトニンに癒されている場合ではありません。

気配を感じただけで、相当「ドキッ!」とします。相手は、最高時速110キロを誇り、トムソンガゼルの時速80キロを大きく上回ります。

セロトニンの分泌を止め、一気に緊張を走らせ臨戦態勢を整えます。血糖値が上昇し、血圧が高くなり、心臓がバクバクと鼓動します。全身の筋肉に血液を送って、ベストパフォーマンスで逃げるためです。また、痛覚神経を麻痺させ、血液が固まりやすくします。傷を負っても、回避行動を続けるためです。

これは、ストレスホルモンと呼ばれる、『コルチゾール』や『アドレナリンなどの作用によるものです。

重要なのは、逃げ切ってしまえば臨戦態勢は解かれ、「危険は去ったのだ」と安心感を与えるセロトニンが発生し、ストレスホルモンは正常値に戻るということです。

なぜ、マイナスに働いてしまうのか?

かつて私たち人類の祖先も、厳しい大自然の中で天敵や未知なるものに遭遇し、「敵と戦うか、逃避するか」の判断を迫られました。その生き残るためのシステムが、今も引き継がれています。

『扁桃体』は、動物や爬虫類にもある古い脳です。よって、あまり高度な情報処理はしません。下手をすると「猛獣との遭遇」と「大嫌いな上司との遭遇」を、同じような『生命の脅威』と勘違いしかねません。判断基準が「快・不快」だからです。

もちろん、私たちは二つが違うものだと認識できます。それは、後述する『人間の脳』が高度な情報処理をするからです。

私たち人間が強いストレスを受けると、扁桃体は昔の名残で、『生命の危機』から私たちを守るための反応をします。『コルチゾール』『アドレナリン』を分泌させ、チーターに遭遇したトムソンガゼルのように、臨戦態勢を整えます。

アドレナリンは緊急時に分泌され一時的なものですが、コルチゾールは慢性的に蓄積していくという性質があります。

さて、「猛獣」と「上司」には、うつ病に関わる決定的な違いがあります。

「猛獣」が相手なら、戦うにせよ逃げるにせよ、ストレスは短時間で去っていきます。それに対して「上司」は、長期に渡って居座り、ストレスを放ち続けます。

この、いつまでも終わらない「慢性化したストレス」を、『動物の脳』は経験したことがありません。扁桃体にとっては、かなりの異常事態でしょう。何といっても、想定外のストレスなのですから。更にコルチゾールを分泌させ、未知のストレスへの対抗を試みても、しつこく「嫌な上司」はそこに居ます。

この事態に偏桃体はパニックを起こして、とうとう『暴走』を始めてしまい、ネガティブな感情で「脳全体を制圧」します。それがコルチゾールの過剰分泌に拍車をかけ、脳に届くことにより事態はさらに悪化します。

海馬の萎縮

『海馬』とは、タツノオトシゴのような形をしている「記憶」を司る器官で、扁桃体とくっつくように存在しています。

この海馬が、コルチゾールの過剰分泌を抑える役割を担っているのですが、暴走した扁桃体による「脳の制圧」はあまりにも強烈で、制御しきれなくなります。

その結果、コルチゾールによって海馬は破壊され、委縮してしまいます。

「物覚えが悪くなった」と感じるのは、このせいです。

なんとも怖い話ですが、海馬は『運動すること』や『抗うつ剤の作用』で、「脳の可塑性」により元に戻るので安心してください。

まるでコルチゾールが悪者のようですが、本来は生命維持のために必要不可欠なホルモンです。あくまで、「過剰」が良くないのです。

原因その3~人間の脳~理性的

脳の構造

前述のとおり、「猛獣」と「大嫌いな上司」を違うストレスだと認識できるのは、『人間の脳』を持つが故です。中でも、抽象化能力に優れた『前頭前野』が、その役割を担っています。進化的に最も新しい脳で、階層的に最上位にあり、「脳の最高中枢」と呼ばれています。

その中に、『DLPFC(背外側前頭前野)』という領域があり、うつ病に深く関係していることが研究で分かっています。

DLPFCには、二つの役割があります。

  1. 『理性』『意欲』『論理的思考』を司り、『前向きな考え』を生み出す
  2. 『扁桃体の暴走』にブレーキをかける

本来であれば、上位にある脳は低位にある脳よりも優位性を持つため、『偏桃体』の勘違いに介入し、理性により「猛獣と上司は違うよ」と言い聞かせてコントロールします。

しかし「慢性化したストレス」を受け続けると機能が低下し、その支配力が失われていきます。そして、ついに偏桃体が理性を振り切って暴走すると、その負の感情に飲み込まれてしまいます。

ここの機能が低下してしまうと、どのようなことが起きるのか?

  • 頭に霧がかかったように思考力・判断力が鈍くなり、ボーっとする。
  • 意欲がなくなり、何もする気が起きない。
  • 前向きな考え方が、ほぼ不可能になる。
  • 嫌な記憶しか思い出せない
  • 扁桃体の暴走が止まらなくなり、『悲しみ』『不安』『恐怖』『絶望感』『焦燥感』に絶えず支配される。こちらの意思とは無関係に…。

これは仮説ですが、ここまでうつ病の症状を的確に説明している以上、まったくの的外れということはないと思います。

うつ病の原因とは

「長期間のストレスの蓄積で、『扁桃体』が過剰に反応し始め、それを鎮める役割を担う『DLPFC』も正常に機能しなくなる。そのため、『扁桃体の暴走』が起きてしまい、コルチゾールを過剰分泌させる。その影響で、『海馬』をはじめ『神経細胞』がダメージを受けるが、『BDNF』も減少しているためダメージの修復が出来ない。すると、『神経細胞』から分泌される『モノアミン』の量も減ってしまうため、『安心感』や『やる気』が阻害され、気分が落ち込んでしまう。」

と答えることができます。

最後に

うつ病に対する理解が広がり、治療の妨げとなる『偏見』や『差別』がなくなる日を願ってやみません。

また、治る病気なのだと知っていただき、克服に向けた原動力となれれば、こんなに嬉しいことはありません。

私もまだ克服の途上なのですが、共にやっつけてやりましょう!